札幌高等裁判所 昭和56年(ネ)142号・昭58年(ネ)66号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【判旨】
1 本件事故は、本件建物の落雪防止設備である本件丸太棒に腐蝕箇所があつて、控訴人日出夫が転倒、滑落した際、そこが折損したことが一因となつて発生したものであること、同控訴人は、被控訴人の夕張支店長として、また本件建物の居住者として、工作物である本件建物とその落雪防止設備の不良箇所を点検のうえ、その不良箇所の補修につき、多額の費用を要するものは予め被控訴人の許可を得て、そうでない本件丸太棒の交換程度のことはその判断によつてそれぞれ行うことができ、また本件建物の雪下し作業についても、これを専門の業者に委託するか、自ら行うか、自ら行うにしてもどのような方法で行うかをその判断により決定することができる立場にあつたことは、原判決理由の前項引用部分(加削変更にかかる部分を含む。以下同じ。)記載のとおりであり、これらの事実に照らして考えると、被控訴人としては、右のような立場にある控訴人日出夫に対する関係では、右工作物の保守管理の点を含む雪下し作業の安全確保に必要な費用を拠出負担すべきであつて、その際同控訴人の右必要性の判断を不当に制限するなどしてその安全確保に支障を生ぜしめてはならないという義務を負つているということはできるけれども、さらに進んで、同控訴人をさしおいて、他の者をして右工作物の保守管理にあたらせ、あるいはその他の安全確保に必要な措置を講じさせるまでの義務はないというべきである。
2 しかして<証拠>によると、本件事故の前年にあたる昭和五二年の二、三月ころ本件建物からの落雪により駐車中の他人の自動車を損傷する事故が起き、そのころ控訴人日出夫が、被控訴人の代表者に右事故を報告した際、落雪事故防止の観点から、本件丸太棒による落雪防止設備を鉄骨製のものに交換することを進言し、これに対し同代表者が、同年秋までに考えておくと述べたこと、しかしその後同代表者から右の件につき何の返答もなく、また同控訴人からの問い合わせもないまま経過したため、本件事故に至るまで右落雪防止設備の交換がなされなかつたことがそれぞれ認められるけれども、原判決理由の前項引用部分認定の事実からすれば、本件事故は、控訴人日出夫が、右落雪防止設備である本件丸太棒を新しいものに交換するなどして右工作物の保守管理を尽し、また、自ら雪下し作業をなす場合には命綱をつけるなどしてその安全確保に留意しさえすれば、これを防止することができ、右落雪防止設備を鉄骨製のものに交換することは、安全確保のため好ましいとはいえても必要であつたとまではいい難いから、被控訴人が同控訴人の右交換の進言をすみやかに採用しなかつたことをもつて、本件事故に関し安全確保に支障を生ぜしめた原因と認めることは困難である。また前記各証拠によると、被控訴人の代表者が、本件事故直前の昭和五三年一月一一日に開かれた支店長会議において、各支店の経費を一割削減する方針を指示し、かつその成果を同年六月に報告するよう求め、それ以前にも、被控訴人の社内では、本店から各支店に対し経費節約の一般的指示が発せられていた(その就業規則上も、本、支店の店長は、日常経費を極力圧縮すべき旨の定めがある。)ことは認められるが、それらの指示が、本件丸太棒の交換等の安全確保に必要な出費をも制限する趣旨のものであり、あるいはそれにより現実にその出費が制限されたことを認めるに足る証拠はないから、被控訴人が右のような指示を発したことをもつて、本件事故に関し、安全確保に支障を生ぜしめた、ということもできない。またほかにも本件事故に関し、被控訴人について安全配慮義務違反に該る事由を認めるに足る証拠はない。
(奈良次郎 藤井一男 喜如嘉貢)